🕯️
Garoop Novel

緊迫の十分間

緊迫の十分間 ― 赤い空の群れ

Garoop NovelCh.01
夜更け、ガルちゃんはノートパソコンの前で、生成AIの教科書を読んでいた。おなかのポケットの中では、ベビーがもぞもぞと動いている。眠ったと思っていたのに、まだ起きていたらしい。「ママ」「なあに」「ママは、どうして焚き火のにおいがきらいなの」ガルちゃんは、画面から目を上げた。昼間、公園でだれかがバーベキューをしていた。煙が流れてきたとき、自分が思わずベビーをポケットの奥に押しこんだのを、この子は見ていたのだ。「きらい、っていうのとは、ちょっと違うかな」「じゃあ、なに」ガルちゃんはパソコンを閉じた。少し考えてから、ポケットの上に手を置いた。「ずっと前、ママがまだオーストラリアにいたころの話。あなたのお兄ちゃんが、まだちょうどあなたくらいの大きさだったころ。長くなるけど、聞く?」「きく」ベビーが顔を出した。黒い目が、まっすぐこちらを見ている。ガルちゃんは、窓の外の暗がりを見た。あれから何年もたつのに、あの夏の空の色だけは、目を閉じなくても思い出せた。オレンジでも赤でもない、焦げた銅貨のような色だった。「ママが、十分間だけ、群れのリーダーをやった日の話」
1 / 8 ページ❦kinpaku-003